野球肘の治療
肘関節の広場:野球肘の治療をガイドする 2005/3/28
◆さて、今週は野球肘の最終回。
その治療法についてガイドいたしますね。
▼治療の原則
原則は保存的治療。つまり手術はしない方法です。
まず、投球動作を中止にします。最も大切な事です。
▼薬物療法
あまり薦めませんが、痛みの強いときには飲み薬を使います。炎症を抑えて
痛みを和らげるお薬です。いわゆる痛み止めですね。でも、短期間の使用に
限られます。
▼リハビリテーション治療
-1)温熱療法
超音波やレーザー療法などを使用します。これは局所の血行を改善させて、筋肉
の緊張を和らげたり、痛みを発する物質(発痛物質)を患部から排除する効果が
あります。
-2)ストレッチや筋力訓練
肘のストレッチは、肘を曲げる筋肉(屈筋群)と伸ばす筋肉(伸筋群)の
ストレッチを行います。ここで、大事な事は決して無理をしない事です。痛みの
ない程度で、ゆっくりとリラックスしながら行います。
ちなみに屈筋群のストレッチは片方の手で指先をつかみ、手首を反らします。
(背屈)一方、伸筋群は手首を手のひら側に曲げていきます(掌屈)。
▼予防がすべて!
しかし、何と言っても予防に対する指導が大切です。投球前の十分なストレッチ。
そして、ウオーミングアップを指導して、肘に負担のかからないようにフォームを
確認する事が大切です。
▼投球数の目安
それでは現在推奨されている投球数をご紹介します。
小学生: 50球以内/日 3日以内/週
中学生: 70球以内/日 6日以内/週
高校生:100球以内/日 6日以内/週
あくまでも目安です。が、いすれにしても練習が過剰にならないように
注意する事が大切です。
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さあ、いかがでしたか?これで野球肘のガイドは終了です。
また、機会がありましたらもう少し細かくガイドしますね。
さて、次回から前腕を滑るように駆け抜け、手関節や手の領域に進み
ましょう。
手の世界はまさに進化の分野。手を支える見事な解剖と、その動きの
不思議さをわかりやすくガイドしますね。
お・た・の・し・みに!
野球肘その2
肘関節の広場:野球肘その2をガイドする 2005/3/21
◆さて、先週に引き続き野球肘をガイドします。
投球動作は5つの動作からなるることをガイドしました。その動作によって
肘に掛かる負担は違っているんです。ここでは、負担のかかる3つの動作に
ついてガイドしましょう!
▼コッキング期 →ボールを持って肩が最大に開き、後ろにいく時期
(まさに出前持ち状態)
この動作では肘の内側の筋肉や腱が引き伸ばされるので、内側に負担が
かかります。
▼加速期 →ボールを投げ始めてからボールを手放すまでの動作
ここでは、肘が外に開くような力が加わるので、内側への負担がさらに強く
かかります。一方、外側の骨や軟骨には、圧迫力や回旋力が加わってきます。
▼リリース期 →ボールが手から離れ、腕の動きが急に減速していく時期
特に、加速期からリリース期の直前にかけては、肘の後部の筋肉や腱は
完全に伸ばされた上体から一転して筋肉が縮む状態になるので、肘の
後方に負担がかかります。
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さて、これら一連の動作の障害を部位別にガイドしてみますね。
▼肘の内側部の障害
内側では牽引(けんいん)力や張力が繰り返されますので、内側の腱鞘炎
や骨端核(こったんかく)異常、骨端線離開(こったんせん りかい)
→別名:リトルリーガー肘 などが生じます。
▼肘の外側部の障害
外側では圧迫力や回旋力が繰り返しかかります。そのため、橈骨(とうこつ)
と上腕骨の一部が衝突して血行障害が起こります。そして、離断性骨軟骨炎
(りだんせい こつなんこつえん)や関節内遊離体(ゆうりたい)が発生して
しまいます。
*関節内遊離体 「関節ねずみ」とも言われています。
▼肘の後側部の障害
リリース期からフォロースルー期にかけては肘が伸ばされるため、後方に
牽引力や張力が加わり、上腕三頭筋腱炎(じょうわん さんとうきん けんえん)
や骨端線離開などが起ります。
*上腕三頭筋 肘を伸ばす筋肉です。
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チョッと専門的でしたね。野球肘は奥が深く、これでもかなり絞りに絞って
ガイドしたつもりです(苦笑)。
1球ボールを投げるだけでも、肘の内外側や後側に負担がかかるんです。
それが何十、何百球と繰り返し負担がかかると、未発達の子供の肘は悲鳴を
あげてしまいます。
子供の障害は時に人生に大きな影響を与える事があります。
お子さんや友人に野球肘で困ったおられる方がいましたら、整形外科の受診を
薦めて下さいね。
今週から高校野球の春の選抜大会が開催されますよね。怪我をしている選手も
少なくないと思います。少しでも良いコンディションで臨んで欲しいものです。
さて、来週は野球肘の治療についてガイドしましょう。
どんな治療が一般的に行われているのでしょうか?
野球肘その1
肘関節の広場:野球肘その1をガイドする 2005/3/14
◆さあ、先週に引き続き、肘関節の広場の中からニックネームで親しまれて
いる病名をガイドしましょう。
今週は「野球肘(やきゅう ひじ)」です。
私も小学生の時に野球をしていました。今ではたまにキャッチボールを
する程度ですが(笑)
この障害。意外に多いのですが、本人はもちろん、指導者もよく理解して
いない方が多いのが現状です。
▼野球肘:Baseball elbow
野球肘とは投球の繰り返しによって生じた骨・軟骨(なんこつ)や靭帯
そして筋腱(きんけん)付着部の障害の総称です。
これは10歳から13歳の成長期に初発する事が多いのですね。
なぜでしょうか?
▼子供は未発達
子供の骨や軟骨、靭帯、筋肉はまだ未発達ですから、体と連動したスムーズな
投球動作が難しいのですね。ですからどうしても投球動作が手投げ状態になり
やすく、肘に負担が掛かってしまうのです。
▼練習方法や指導が原因?
ただでさえ、未発達な子供たちに間違った練習方法や指導。そして練習の
やり過ぎが加わるとさまざまな肘の障害が起きてしまいます。
▼投球動作は5つの動作
さて、指導者の方でこの5つの動作をスラスラと説明できる方がどれ程
いるでしょうか?
1.ワインドアップ期
投球動作に入るまでの動作
2.コッキング期
ボールを持って、肩が最大に外転(がいてん)・外旋(がいせん)する
時期までの動作です。つまりボールを投げる出前持ちのような状態です。
(肩が横に上がり、後ろに反らしている状態)
3.加速期(かそくき)
ボールを投げ始めてから、ボールを手放すまでの動作
4.リリース期
ボールが手から離れ、腕の動きが減速される時期までの動作
5.フォロースルー期
ボールを投げ終えてから投球動作が終わるまでの動作
たった1球ボールを投げるだけでも5つの動作が必要なのです。
そして、その動作によって肘に掛かる負担も違ってきます。
チョッと難しいですね(苦笑)
さて、来週はこの5つの動作に伴う肘の負担をガイドしますね。
テニス肘、ゴルフ肘
肘関節の広場:ニックネーム病名をガイドする 2005/3/7
◆さあ、今週は肘関節の広場の中からニックネームで親しまれている病名を
ガイドしましょう。
みなさんにもお馴染みの病名があるかもしれません...
▼前腕を走る(肘から手関節にかけて)二つの滑走路(筋群)
さて、ニックネーム病名の前に二つの大事な筋群をガイドしましょう。
まず、ご自分の腕を良く見てください。上腕骨(じょうわんこつ)の下端に
二つの出っ張りがあるのがわかりますね。外側と内側に骨が出っ張っています。
さらにグッと拳を握ると、腕からその出っ張りに筋肉が集中しているのが
わかると思います。
実は、外側の出っ張りに付く筋群は手関節の背屈(上に反らす)や回外
(手のひらを上)の役割。内側に付く筋群は掌屈(下に向ける)や回内
(手のひらを下)を担当しています。
これらの筋群が、使いすぎや疲労によって炎症を起し、痛みの原因になる
事がよくあります。
▼テニス肘(上腕骨外上顆炎:じょうわんこつ がい じょうかえん)
テニスのバックハンドや、仕事で手関節を頻繁に使ったり、雑巾絞りなど、
手関節を背屈する筋肉が付いている上腕骨の外側の出っ張りには、いつも
負担が掛かっているんです。
そのため、炎症や腱繊維の部分断裂を起したりして、慢性的な痛みを生じる
事があります。これがテニス肘こと、上腕骨外上顆炎といいます。
基本的には安静が第一ですが、手を使わないわけにはいきませんよね。
痛みが出ないように手の向きを変えるなど工夫も必要です。
多くは数ヶ月で自然治癒します。しかし、稀に1年以上続いて手術が必要に
なる事もありますから、軽んじるのは禁物です。
▼ゴルフ肘(上腕骨内上顆炎:じょうわんこつ ない じょうかえん)
一方、肘の内側の出っ張りには手関節を掌屈させる筋群が付いています。
ここに負担が掛かって痛みを起すのをゴルフ肘(上腕骨内上顆炎)と
いいます。
表現は悪いですが、時に「手を抜く」事も大切ですね。使いすぎは良くあり
ません。
さて、来週はもう一つのニックネーム病名。
野球肘(やきゅう ひじ)をガイドします。
スポーツ外傷の分野でも重要なテーマの一つです。
出来るだけわかり易くガイドしますね。
お・た・の・し・みに!
肘内障
みなさん、こんにちは!
いつも読んで頂きありがとうございます。
今週からお読みになった皆様。はじめまして!フーです。
19日(土)からタンパを経由してワシントンに入り、学会発表。その後、
シカゴ経由で本日27日夜に帰国しました。10日ぶりに子供とお風呂に
入り缶ビールを1本飲み、今やっと落ち着いたところです。
少々時差ボケではありますが、今週も皆さんにお届けするために頑張って
書いていまーす(笑)。
宜しくお願い致しますね。
◆ 【「 肘関節の広場:肘内障(ちゅう ない しょう)」】 2005/2/28
◆さあ、今週から肘関節の広場をガイドしましょう。
肘の広場にも「ひ・み・つ」が隠されているんですよ。
▼肘の軸(じく)
さて、みなさん。腕を伸ばしてみて下さい。腕全体の形はどうなって
いますか?真っ直ぐに伸びてる?
いえ。違いますよね(笑)
肘で外側に向いていますよね。それが正常です(笑)。
小学生の時にバケツを持って廊下に立たされた事のある方。おられます?
実はこの時、肘から先は外側を向きます。
ところが、肘を曲げてくると手が顔に届きやすいように、手が内側に
入ってきますよね。これが肘の軸(じく)です。
このように肘の軸(じく)は生理的に傾きがあります。
人間の体は本当に良く出来ていますね。
▼医者が神様になる瞬間!
整形外科医がお父さん・お母さんなどから物凄く感謝される事があります。
そう。一瞬にうちに治してしまうので「神様」のように思われる事も。
それが、肘内障(ちゅう ない しょう)を治した瞬間です。
では、現場を再現してみましょう。
休みの日に5歳の幼稚園児が、お父さんとお母さんの間で手をつないで
歩いていました。ほのぼの家族ですね。
ところが、チョッと転びそうになった幼稚園児が握っている手を思わず
引っ張ったら、腕をダランと下げて「ワーン!」と泣き出しました。
あわてて、医者に診せると腕をヒョイと捻るとあっという間に治ってしまい
ました。まるで魔法のようです。
そう、整形外科医が神様になる瞬間です。
(オーバーですが、親御さんはかなりビックリされます)
▼肘内障(ちゅう ない しょう)
さて、この肘内障。少々専門的になりますが、前腕にある骨の一つである
橈骨(とうこつ)の頭が靭帯からはずれかけて、靭帯が関節にはまり込んだ
状態なんです。
まず、小学生になると起こらなくなりますので、ご安心下さいね。
ちなみに、治し方。
肘を曲げながら親指を外に向くように捻るのがポイントです。。
(その時に肘に指をあてているとクリックといって、元に戻った音が
聞こえる事があります。)
さて、来週は肘のニックネーム病名をガイドします。
お・た・の・し・みに!
----------------- <注意、免責事項について> ---------------------
■□医療相談は行っていません。治療中の方は主治医の方にご相談下さい。
■□記載内容を利用して生じた結果については、当方では責任は取れません。